日本テレビ 報道特捜プロジェクト担当者様

 こんにちは。先程こちらから送信しましたFAXがエラーになりましたので、もう一度送信いたします。もしちゃんと受信できていたのでしたらすいません。

今日、貴番組での官僚の裏金作りの報道を見ながら、国立大学の学生時代、研究室の「伝統」としてこれに類似する資金作りの協力をした経験のことを思い出していました。教授たちから頼まれて代々先輩も協力していましたし、研究予算も少ない中で、野外観測であちこち出まわらなければならない性格を持つ研究活動を継続するにはそういう手段でも取らないと難しいという現実から、当時協力しましたが、確かに形式的には事実とは外れる形式で不正に経費を国費である大学予算から得ていたという形であり、問題だったとは思うのです。でも、当時の研究室の予算の実情を思うと、拒否していてはまともに研究をするための観測は出来ませんでしたし、今それを公にしてしまったらお世話になった教授たちを困らせる事になるし、あの報道に比べれば、私たちの取った方法は、実体としては3分の2程度は表の名目に沿ったものだったとも思うし、良心の呵責との中で悶々としているのです。

 私は地方の大学の理学部の地震学研究室の出身です。被害を起こすような地震はそれほど多くは発生しませんが、体に感じないような小さな地震は毎日のように発生しているので、研究の大半はそういう微小地震を対象にして行われています。しかし車や工場の振動などが強い都市部では観測ができないので当然に観測のために使う地震計は地下深くとか人里離れた場所に設置しなくてはなりません。広い地域を解析対象にするので、設置場所を決める現地の予備調査、設置作業、メンテナンス、収録データの回収などの為に、車であちこち回り、泊りがけで行動するとか、時には突発の大きな地震のために深夜に100km離れた観測点まで行って返ってくるようなことをしなければならないことが多かったのです。森の中に穴を掘ってケーブルを回す作業は研究室の教授も学生も一緒になって行いました。設置場所のそばでカモシカとかニホンザルなども見掛けたりました。

 そういう野外観測などの為の経費は、他の講座では学生が負担したりしているところもありましたが、ドラマに出てくるような遊べる金のある学生とは違って、学費生活費が月5万円でやりくりしていた私の場合には、まともに自己負担していたら参加が出来なかったことと思います。公的に学会発表もしている研究なのですから本来は研究費で公的に費用を工面できるならいいのですが、うちの研究室に限らず、地方大学にはまともに研究費はなかなか割り当てられません。旧帝大の同様の研究室ならワークステーションが学生にも使えるというのに、当時の研究室には学生がデータ処理するためのパソコンもまともになく、何世代も前の古く処理の遅いパソコンを順番待ちして使うため、時間差出勤みたいなことをしたりすることもよくありました。(例えば夕食を食べてから出て来て夜中に使って朝帰るとか。)

 そういう状況の中で、資金作りのための「空バイト」をしてくれるように教授たちから頼まれたのです。「震源決定」という作業を学生がしたということにして、一旦学生がお金を受け取って、それを教授に渡していました。毎月ではありませんが、残りが空に近くなるとたまに数人が頼まれ、合わせて数万円程度にはなっていたと思います。震源決定する作業自体は学生でもちょっと教えられればできるほど手順は簡単なのですが、公的に大学のデータとして保存するものとしては、その地域特性に応じて地震波の情報を見抜く熟練した技能が要るので先生たちぐらいでないとしていません。私たちは、時々自分たちの興味や、先生が不在の時の地震発生で取り敢えず震源の場所を把握するために決定作業をしてみることはありましたが、記録として「保存」はせずに、自分が決定した結果はその都度自分のメモにとどめて消しておりました。

 ですので、公的な「震源決定」自体は学生はした事実はありません。ですので正確にはバイトした名目の作業をしていないことになります。ただし、下級生の実習としてやらせているものを除き、震源決定に使う観測システムの状況は研究室の学生も日頃から注意して見ていましたし、先生たちの手を煩わせないように率先してメンテナンスをしたりしていました。夜中に起きた大きな地震でも、講座の学生の大半がすぐ駆けつけ、先生よりも早く着いた人もおり、観測データが途絶えないように機器を調節したりしました。通常の地震の発生頻度では2日毎に取り替えれば充分の紙も、大きな地震の時には、2時間に一回交換しなければなりません。先生は緊急に震源決定や波形解析をするので、データが集中している間、学生たちで夜を徹して機器のメンテナンスをしました。そういう地震の中には地元のテレビ局にその様子を取材もされたものもありました。そういう現実を思えば、学生が震源決定システムのバイトをしているのに匹敵する活動をしていたとは思います。現にアメリカの大学ではそういう作業を学生のバイトとして公的に制度化して、それで「学生個人の報酬」としています。ただ日本でそういう現実の学生の働きそのものでバイトの申請をすると、バイトとして事務局などに認めてもらえないのだそうです。

 「旧帝大の研究室では、野外の地震観測にかかった費用も予算から出るということで、学生は負担を気にせずに観測に出まわることができるのに、うちの場合はそういう予算が取れない。こうしないと野外作業のためのお金がまかなえない。」と教授たちは漏らしていました。直接学生の懐に入れていませんし、日曜日だろうと深夜だろうと動くべき時は動いて活動しているので、決して遊興費が主目的ではないのです。学生も先生も、まじめに研究していました。先生も学生に手心を加えるとかではなく、純粋に研究を充分に行うということで学生の為に助けをしてくれていたわけですので、その先生を悪者のようには思えないのです。家庭の事情で研究に支障があるときにも、いろいろ手を尽くして研究を続けられるようにしてくれたりもしてくれた、私たちにとっては良心的な先生たちです。しかし、明らかに経理上は建前に偽りがなかったわけではないお金でした。当然通常の飲み会程度ならちゃんとポケットマネーやOBのビール券などで賄っていましたが、そういう遠征観測での泊まりの時に、一日の重労働の後のビールを一本も飲まなかったわけでもないのです。同級生であっても他の講座の人にはこの空バイトは秘密にするように言われていました。うちと同様に遠出の野外観測の避けられない他の研究室の同級生からは「よくそんなに野外に行くお金があるなぁ」と言われたこともあります。

 報道にあるような官僚の不正には本当に腹が立ち、官庁の情報公開を徹底して不正を一掃してほしいと心底思って、自分では日頃行動しています。先日FAXいたしました違法派遣問題も労働行政の見て見ぬふりのために被害が野放しになっており、警察や労基署に情報公開を求めてものらりくらりした対応で苦しんでおりますが、現在自分の問題については労働弁護士の助けを受けて裁判に訴えて抵抗をしています(静岡地裁浜松支部)。しかし、そういう活動をつきつめていくと、自分の中では最終的に自分の経験したこの「空バイト」にどういう決着をつけるべきなのかという壁にぶちあたります。未だに良心の呵責には苦しんでいるのです。

平成11年2月27日                      小野田 英(おのだ たけし)

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