平成15年(ネ)第6021号
損害賠償控訴事件

控訴人
小野田 英

被控訴人
(株)カクヨ

控訴理由書

平成15年12月21日


東京高等裁判所 御中

控訴人  小野田 英   


 第一審の判決に、以下の2項目の不当な事実認定がありましたので、控訴致します。
1.紳士協定の存在及びその発効日について言及されていない。
2.雇用保険法施行規則7条1項における「当該事実のあった日」について、被控訴人だけの事情に基づいて前項目に矛盾する新判断を下している。

以上。



 上記2項目について以下にその詳細を記載します。

1.第1項目について
 甲第2号証(和解調書)の内容は、平成15年5月22日の審尋の場で合意に達した内容を記した物であるが、その審尋の場で控訴人は離職票の即時の発行を求めたのに対し、裁判官のほうから、それを明文とせず、紳士協定として約束するよう依頼があったのである。控訴人は、裁判所という公的機関からの要請に基づく紳士協定であるから、その協定について裁判所が後ろ盾して保障してもらえるものと解し、控訴人は裁判所を信頼し、退職日を同年5月22日とすることに合意したのである。
 今回、第一審判決に於いて、それに全く言及がされず、文書での和解成立日だけを認定していることは、「裁判官自ら要請して締結された紳士協定が裁判所によって反故に出来る」と認定する事に等しく、裁判所への国民の信頼を裏切り、「今後日本国の裁判所に於いては、和解協議の場で裁判官から紳士協定を持ち掛けられても、国民はその協定に応じては損害を被る」ということを肝に銘じなければならないという結果を引き起こすものである。国民の司法への信頼を裏切る認定はするべきではない。
 本件における和解の成立日は、単に文書に明示して合意調印した日に限って認定するべきではなく、控訴人が「裁判所から紳士協定とすることを求められて」離職日について同意したという事実を勘案して、当該離職日とそれに付随する離職票発行の合意部分については、文書での和解日を遡った平成15年5月22日を合意成立日とするべきである。同日を和解成立であるとの認識が法律解釈の専門家である弁護士によっても認められる事は、被控訴人自らが提出した乙第1号証にも記載がある通り明らかである。同日を和解成立日とする認識については、その時点で被控訴人側からは異議を出していないという事実も勘案すべきである。

2.第2項目について
 雇用保険法施行規則7条1項にあるところの「当該事実のあった日」は、通例、会社都合退職の場合、「退職させられた日」と解するものである。本件のように当初の解雇日に不服があって訴訟となり和解協議によって離職日が決定した場合も、「当該事実のあった日」は「離職日」と解するのが自然な判断であるが、本件第一審判決に於いて認定されたような「和解調書が事業主に送達された日」を「当該事実のあった日」とするような判例は過去に無く、新判断である。
 和解調書受領日は、被控訴人が「和解調書が作成済みです」と連絡を受けて自ら裁判所に出向いて当日に受け取る事も出来たものであり、被控訴人の気分次第で手元に取り寄せる日が変動し得るものである。また、控訴人と被控訴人とで受領日が違うことは有り得るものである。現に控訴人は平成15年6月3日には受領している。例えば被控訴人が同様に同日に入手していれば、同日中に離職票発行手続きを終えて職業安定所で控訴人と待ち合わせて直に離職票を手渡し、同日中に控訴人が雇用保険の失業給付を受ける手続きを終えることも充分に可能であった。その様に、受け取りの形態や訴訟関係人毎に不確定に決まる受領日を「当該事実のあった日」として認定する日とすることは、あまりにも特異な判断で、合理性を欠いたものだと言わざるを得ない。特に、「離職票が無いと失業給付を受けることが出来ない」という事実を勘案する場合、
・離職票発行が遅れた日数分だけ失業者が無収入に置かれる
・もし『離職票発行日を持って退職日とする』という明文で和解がなされていれば、離職票発行が翌月に持ち越された本件のような場合、国民年金への移行月と国民健康保険の減免対象月はどちらも一ヶ月後にずれ、控訴人の負担額に大きく変動がある

という現実があるのであるから、離職票発行や「当該事実のあった日」の認定の遅延によって受ける失業者の著しい不利益は無視すべきものではない。第1項目に於いて、明文化されてなくとも、「裁判所が明文化せず紳士協定にするよう持ち掛けた」という事情がある以上、裁判所はその言動に責任を取り、通常の法令解釈に沿って「離職日」を「当該事実のあった日」として認定すべきである。
以上。