日向灘で発生した2月6日


(『「地震前兆検知」実験観測情報』では2月8日と誤記されている)

の活動について




 2002年2月20日に配信された『「地震前兆検知」実験観測情報』のNo.927-2/2を お読みになった方に感想を伺いたいのですが、「予測番号920-(3)参考」の対応の可能性ありと されている日向灘の地震活動の前兆レベルが「M3+」とされていますが、本当に前兆レベルは この値でいいのでしょうか。

 SeisPCと気象庁の地震の暫定値を手にされているかたなら御確認していただきたいのですが、 KT法での固有な計算方法である、複合活動断層長計規模でM4.0に達する活動になっているのは、震央の位置が海深1000m〜2000mのところ(北緯32度と統計132度の交点のやや北東付近)で2月6日午後〜7日午前にかけて7つ発生したものです。

 『地震予報に挑む』第4章 119ページに書かれている震源の深さについての減衰は、

y=0.007x+0.0231


ですが、通常、この天文台では30km未満の浅い地震については深さ減衰は与えていません(これまでの『「地震前兆検知」実験観測情報』でお確かめ下さい)。今回のこの活動については、主震がM2.7の深さ9kmですから、深さ減衰は与えない事になります。

 一方、海深減衰については、SeisPCのデータでは海深が特定の区切りでしか分からないので、この天文台では、通常以下のように海深減衰を与えています。

 
沿岸
0.3
大陸棚
0.5
200m〜500m
0.7
500m〜1000m
1.1
1000m〜2000m
1.8
2000m〜3000m
2.6

 以上から計算されるKT法の前兆レベルは「4.0-1.8」ですから「M2.2」となります。

上記の区切りの海深線の近くに震央が位置している場合には、『地震予報に挑む』第4章 119ページにある、次の計算式を使う事もあります。

y=0.0009x+0.3921


 今回の活動は、SeisPCで見ると、海深の等深線の1000mが一番近くなります。これを上の式にあてはめると減衰量は約1.3。これで補正を与えるとすると、今回の活動の前兆レベルは「M2.7」となります。これではまだ、KT法の現状の検知限界(M3.0超)に達しません。

 ここで串田さんからの伝聞である気象庁の内部情報が出てくるのですが、気象庁の暫定値には±0.3の誤差があるのだそうです。最大0.3の誤差があって「複合活動断層長計規模」がM4.3に上方修正されるとすると、前兆レベルはやっと「M3.0」になります。これでも現在の検知レベルには達していません。

 上記の「M2.2」という前兆レベルから、地震活動の調査担当だった私はこの活動を対応発生とはみなさず、「対応は発生していない」報告していたのですが、串田さんとしてはそういう裏事情があったので、これが対応であって欲しいという期待から『「地震前兆検知」実験観測情報』のNo.923〜925に「既に発生済みの可能性も有」の但し書きを入れていたのです。

 ですが、上記のように、自分達の都合の良いようにデータを再解釈しても、まだ「M3.0超」にはなりません。ずばりと「対応だ」と言えるほどの大きな活動も、日付の誤差を経過しても発生しません。

「なんとか予測が外れであってほしくない。」

 そこで出てきたのが、「震央の位置決定の精度が悪いはずだ。」という串田さんの持論です。もっと陸地よりに震央が決まれば、震央が海深が1000mよりも浅くなり、前兆レベルがM3.0を超えるはずだというのです。上記のマグニチュードに間する内部情報は地震学を学んだものとして私も一概に否定しませんが、震央そのものまでそのような一律の誤差があるとは到底思えません。

 幾何学の初歩と誤差論の初歩を使えば、確かに南西諸島とか千島列島のように震源の片側に一列に点々と離れて並んだ観測点しかない場合、沖合い方向への誤差は大きいのは確かだと分かります。けれども、観測点間を結んだ直線方向の誤差は大きいでしょうか。今回の活動は、震源の四要素が決まっている事から最低でも4観測点のデータで震源決定されたはずです。今回の日向灘の活動の場合、大隅半島と四国を結ぶ線の上にありますから、この線の方向での誤差が大きいとは考えにくいです。更に、その線と直行する方向に大分県の観測点もあるでしょうから、この方向での誤差は更に考えにくいです。となると、残る誤差としては、SeisPCの等深線自体が信用ならない場合ということになります。

 つまり『「地震前兆検知」実験観測情報』No.927-2/2で「海深入りくんでいる領域」として前兆レベルを「M3+」として対応の可能性ありと述べているのは、以上のような考えによるものです。「対応発生」と断言せず、「可能性」として「予測外れ」の可能性を含んでいるのはまだ良心的かもしれませんが、気象庁の暫定値を取得できる人が「go」ドメイン及び「ac」ドメインに限られている現状では、検証の手段を持たない圧倒的な一般読者に対する情報操作とも取られかねません。元々「M2.2」だった値が考えようによっては「M3+」になるというのですから、まさに数字のマジックです。

 このような数字のマジックが許されるなら、これまでのこの周辺の活動だけでも「予測もないのに発生した」という事例が沢山みつかることでしょう。「火山性前兆」として片付けられた予測の中で「対応発生」とできるものも沢山見つかることでしょう。これについて、もし、SeisPCと気象庁の暫定値を使用可能で、これまでの『「地震前兆検知」実験観測情報』をお持ちの方は、一度調べてみてください。私も自分がメモした範囲でこれまでのそういう事例を見付けていきたいと思います。

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