浦河沖で発生した2月16日の地震について




 『「地震前兆検知」実験観測情報』No.927-2/2に「その他の発生有感地震」の中で 前兆レベルが「M2.9」とされているものですが、本震のマグニチュードがM3.7、深さ 24kmなのに何故前兆レベルが「2.9」になって検知限界下とされたのでしょうか。

 実情は以下の通りです。

 前述の日向灘(2002.2.6)のところで述べたとおり、通常震源の深さが30km未満は通常深さ補正は行いません。震源の位置は大陸棚の縁から少し陸側に有ります。通常の海深での減衰補正を与えると、この前兆レベルは「3.7-0.5」で「M3.2」となって検知限界である「M3.0超」に該当してしまいます。しかし、『「地震前兆検知」実験観測情報』をお読みになった方ならお判りの通り、この地震に関する予報は出されていません。

 地震活動の調査担当だった私は、当然、これについて事後とはいえ追跡調査が行われるものと思っておりました。有感地震の記録簿にも前兆レベルとして「M3.2」をかきこみました。しかし、解析担当である中川研究員(普段51chの記録の読取りは串田さんは行いません。中川研究員から指摘のあったものだけを串田さんがチェックすることになっています。)が、「M3.0」と書き直してしまいました。理由は「震源の深さ補正として0.2を引けばM3.0になるから。」というものでした。

 PHP新書『地震予報に挑む』の式は前述の日向灘に書いてあるものですが、私が勤務開始した昨年(2001年6月)には、「70km以浅の地震の深さ補正は10kmあたり0.1減衰」という経験則に変わっていましたので、この「0.2」というのはそれに由来していますが、私は何か釈然としない思いがしました。

「何故今回だけ30km未満の地震に深さ補正をするのだろう?」

 翌日分のデータが入り、浦河沖を再チェックしたところ、この地震の余震とみなせる地震が24時間以内に1つ発生しておりました。計算上、複合活動断層長計規模でM3.8に達しており、通常の減衰補正を行えば前兆レベルは「M3.3」となります。中川研究員の言ったように「今回だけ」震源の深さ補正0.2を引いても前兆レベルは「M3.1」になり、検知可能となるはずでした。私は中川研究員のやり方の通り、有感地震の記録簿に前兆レベルとして「M3.1」とかきこみました。

 そうしたら信じられない一言が浴びせかけられました。

「そんなに私の仕事を増やしたいのか!」

 M3.0を超えると検知可能レベルになってしまう、つまり、前兆の見逃しがあった可能性がある。

「でも見直してみても前兆は見つからない。」

 今の所、M3.0を超えても受からない地震としては、
  1)大地震の一連の余震として発生する地震
  2)横ずれ成分のある地震
しかありません。しかしこの地震は1)ではないし、防災研のメカニズムは奇麗な逆断層であり、2)の可能性もない。

 中川さんとしては困ったのでしょう。急に大陸棚の縁に近いことを持ち出しました。

「海深200mとして計算式の方を使えば、海深減衰は0.6になる。3.8-0.2-0.6=3.0で検知限界下。」

と言い、有感地震の記録簿に「M3.0」を書き込みました。

 それが何故『「地震前兆検知」実験観測情報』927-2/2で「M2.9」というと、余震を無視して本震のマグニチュードだけで上記の補正を行ったからです。こうして前兆レベル「M3.3」の活動は「M2.9」の検知限界下の活動にされてしまいました。有感地震で一群の活動のレベルが検知限界を超えていても前兆が見当たらない場合、こうして本震(及び有感となった余震)を個々に取り上げて計算上検知限界下として報告した例は他にも沢山あります。無感地震となればなおのこと、『「地震前兆検知」実験観測情報』に記載さえされません。次の空知支庁南部(2002.2.16)が典型例です。

 自分の都合の悪いデータは、自分の都合の良いように良いように解釈するという操作をその都度行っていて、本当にこれが科学なのでしょうか。都合の悪いデータを報告されて仕事が増えるから怒るというのが科学者の姿勢として妥当なのでしょうか。

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